メロディッシモ
夕凪ここあ

フラットしたまま
夕暮れていく
音楽室からは
いつも
音のない
演奏会

放課後に
わたしたちは
どうしようも
ないほどに
透明で
同時に
不器用な
温度で
つま弾いていく

とっくに
楽譜の読み方は
忘れてしまったよ
ううん
本当は
始めから
知らなかった
かもしれない

ト音記号の
渦巻きを
一周多く
描いてしまったから
遠回り
してしまったね
わたしたち
初めての
手のひらの
やわらかさ

夏の夕暮れは
いつだって
かなしいくらいに
ピアニッシモで
よそ見の合間に
遠ざかってしまう
小さく
涙しても
制服の
折り目までも
ずれて
いく

加速したまま
帰らない
わたしたちの
夏は
あしたの朝には
すき
なんてことばも
もう
通り過ぎて
いくけれど

いつまでも
スラーで
繋がれて
いたかった
放課後

五線譜の隙間に
置いてきて
しまった
たいせつなものを
楽譜の読み方を
知らないせいで
今でも
思い出せないで
いる


自由詩 メロディッシモ Copyright 夕凪ここあ 2007-07-20 00:55:17
notebook Home 戻る