embryo
士狼(銀)

温かい霧雨は
失われた羊膜の記憶のように
柔らかに
わたし
という意味を
緩やかに包括する

鳴き声のような雨音は
鼓膜に優しいけれど
痛みに疼く左目が
暗転する風景を拒絶している
疑問符で溶けた脳髄を
傘の先端で
水溜りに一滴だけ落として
みたいと思った

温かい霧雨の
そのリズミカルな弾性は
夏服の袖から伸びた
奇妙な形をした肌色を
めった刺しにしていくようにしか
わたし
という存在は
受け入れないのだ

感嘆符に驚いた傘を
放り投げて見たイメージ
電車が脱線する
錆びた警報機の赤目から
わたしは何も生むことができなくて



自由詩 embryo Copyright 士狼(銀) 2007-07-19 22:07:41
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