三千円でごめんなさい
doon
死んだんだってさ
この辺りで一人の年寄りが死んだらしい
それまで興味など無かった筈が
急にその人の家の前を通るたびに
死んだんだってさ
という 主婦達の声を思い出す
垣根の向こうには変わりない一戸建て
当たり前なのだが
当たり前なのだ
やがて私は、わずかな貯金からひねり出した三千円を
ピン札だったか
皺くちゃだったか
もうどっちでもいいのだが
封に入れて焼香をしに行った
死んだんだってさ
誰もその言葉を、その場で言わない
夜の突き当たり
雪洞が明るかった
帰り際には 名前も知らない年寄りへの焼香が終わり
少しだけ纏わりつくような線香の匂いの中
自分の部屋へ返ってきた
それから
三年
ふとあの時の三千円の事を思い出し
死んだ人の名前を思い出そうとしたが
やっぱり私は知らなかった
自分の死というものをよく見つめていた私にとって
対岸の火は やっぱり対岸なのだろう
人はそんなものなのかもしれない
三千円分
知らない死んだ人への贈り物
特別でない死など
私たちにとってそれ位なのかも知れない