◆もぎたての夏
千波 一也





呼吸するすべなど誰も教わらない駆け出す夏はどこまでも海


鍵盤を戸惑うような告白が胸をすみかに未来へ渡る


横顔にかける祈りもつかのまに夢から夢へ原理をつなぐ





陽のにおう素肌にけものを思いつつ果実のもろさを丁寧に盛る




もともとの肌と日焼けの境界をきみになぞられ放たれる、夏


あやうげな野性をもって傷ついて吐息のなかにきみの名を呼ぶ


やわらかな髪は刹那の針をもち水気豊かに十二時をさす


太陽はけなげな星とつぶやいて眠れるきみの背中を包む





灯台を頼るほどには熟れていない星に焦がれてもぎたての夏





よろこびは青ざめるほど美しく疑いの樹に実りは満ちる


かなしみが残らなければ涸れてしまう千年先もはじまりはここ





鳥たちを探しつづけて空の底ちいさな歌を無数に揺れる


さかさまに生まれたぼくの子守唄あの枝先でいま風にのる





終わらない夏の代わりに瞬いて鎖骨は刻むひかりの断章











短歌 ◆もぎたての夏 Copyright 千波 一也 2007-07-18 08:08:35
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【定型のあそび】