◆もぎたての夏
千波 一也
呼吸するすべなど誰も教わらない駆け出す夏はどこまでも海
鍵盤を戸惑うような告白が胸をすみかに未来へ渡る
横顔にかける祈りもつかのまに夢から夢へ原理をつなぐ
陽のにおう素肌にけものを思いつつ果実のもろさを丁寧に盛る
もともとの肌と日焼けの境界をきみになぞられ放たれる、夏
あやうげな野性をもって傷ついて吐息のなかにきみの名を呼ぶ
やわらかな髪は刹那の針をもち水気豊かに十二時をさす
太陽はけなげな星とつぶやいて眠れるきみの背中を包む
灯台を頼るほどには熟れていない星に焦がれてもぎたての夏
よろこびは青ざめるほど美しく疑いの樹に実りは満ちる
かなしみが残らなければ涸れてしまう千年先もはじまりはここ
鳥たちを探しつづけて空の底ちいさな歌を無数に揺れる
さかさまに生まれたぼくの子守唄あの枝先でいま風にのる
終わらない夏の代わりに瞬いて鎖骨は刻むひかりの断章
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【定型のあそび】