病床で
円谷一

車の走り去る音が水飛沫のように聞こえて心地良かった
誰かが車を閉める音が夏休みを彷彿とさせた
熱は下がったが医者から絶対安静と言われた
まだ咳と痰が出る
動くとすぐだ
こう暇であると天井をじっと見つめて
ありもしない模様を想像してしまう
瞼が非常に重たいので目を瞑る
眠気が無いのでひどく体がむず痒くなってくる
それにじっと耐え沈んだ気持ちで早く良くなることを願う
部屋の中は暖かいが外は音もなく激しく吹雪いている
胸の平原を埋め尽くし打ち付けるように
家には誰もいない
詩を書きたいが頭を使うと悪化するだろう
色々な場所を思い出してみる
すぐ外のベランダや
森林公園の前の橋の上などだ
どうしてそんな辺鄙な場所を思い出すのか分からない
時計の針が喧しく聞こえる
読みかけの文庫本を寝たまま読む
ぜんぜん頭に入らなくてすぐに止めてしまう
虚しい時間が蝸牛のようにゆっくり進む
腹が空いてきた
喉も渇いてきた
室温のせいで温くなったゼリー状の飲み物を一気に飲み干す
少しは気分も落ち着いてきた
突然ばんえい競馬のことがふと頭をよぎった
猛吹雪の中砂場を全力で走り抜けるばん馬達
激しい息づかいと極寒の中滴れる汗
踊る肉体が目に焼き付く
再び目を瞑って眠ろうとした
淀む生温い暗闇が熱い眼球を冷やす
しばらく意識がその下にあったが
気が付かない内に眠ってしまった
ピンク色の不条理な夢を見ていても
視線の位置はずっと固定されたままだった


自由詩 病床で Copyright 円谷一 2007-07-18 04:04:46
notebook Home 戻る