一つの区切り
池中茉莉花

先生、わたし怒ってた
だってね、やったことが酷すぎる
あれはどう見たって 虐待よ

だけど、先生、どうしてこんな早く死んじゃったの?

わたしはもう、あのころの先生の歳になりました
こんなに体、つらかったんだね
そういえば、いつも腎臓いたい、いたいって

先生の腰をよくもんだ
先生の肩をたたいたね

たぶん 先生は 気持ちの糸が絡み合って ぐちゃぐちゃだったんでしょ
だって、肩を叩かれて、先生は いつも 目がとろおんとしてた

こんなことなら わたし
先生のうちに 怒鳴り込めば よかったよ

大人として 対等に
あんた、わたしに何したのさ わたし、あの後からずっと病気なんだよ!
どう責任取ってくれるのさ 責任取ってもらおうじゃないの えー!

どうせ、先生はあやまらない
 あんたが 可愛いから しつけたんじゃないの
 あんたが いじめられてるから 止めようとしたんじゃないの

それで 取っ組み合いの 喧嘩して わたし
「いじめを煽ったのは あんたじゃない え、先生」って言い続けるの

どうせふたりは 同じくらいの 背丈で 
同じくらいの体重なんだから
相撲でも取って 決着をつけてやるんだった
わたしは 組んで勝ってみせる
絶対 負けないんだから

そうして ふたりは 仲直りなんかしないまま
傷つけあった分だけ お酒でまぎらわしにいくの

だって先生、昔、子どもたちに 
「大人になったら あなたたちと 一緒に飲みたいわ」って

先生にガンガンついでやる
先生も負けずについでみてよ

わたしは ウィスキー、ストレートだって
潰れない
日本酒いっくらのんだって びくともしない

そして 潰れた先生を おぶって家に送ってあげるんだ

お互い顔をつきあわせて そうやって
傷つけあったほうが よかったね

わたしはまだまだ 先生のところには行かない
まだこの場所で 生きてくの

でも、必ずまた 会うのだから
会ったときは そうしましょう

それまで わたし 生ききります
待っててよね
四股でもふんでさ
ね、先生


※「憎しみつづけた先生へ」を加筆・訂正


自由詩 一つの区切り Copyright 池中茉莉花 2007-07-16 19:12:56
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