都影女
hiro
夜の仕事から帰ってきた女
シャワーを浴び終え
冷えた部屋のなかで
自分の体を大きな鏡に映し出す
年と酒のせいか
下腹部を見てうなだれ
大きなため息をつきながら
寝巻きに着替えた
そして窓辺に向かうと
疎ましく外を睨みつけ
カーテンで朝を遮った
ベットにもぐりこむと
抵抗一つせずに
深い深い眠りについた
真っ暗な部屋には
時計の音だけが響いていた
どこからともなく
2匹の蜥蜴が現れた
そして女の体の上を
我が物顔で這いずり回った
背は黒く青い縁の蜥蜴
女の身体舐め尽す
女 寝返りをうつ
尾の長い黒い蜥蜴
すかさず
臀部の谷えぐり
頭を突き刺した
朦朧と夢か現実かの
区別もつかず
起き上がる女
時計を見やる
そして鏡に目を移した瞬間
悲鳴を上げた
艶やかな鱗に覆われた体
長い尾のはえた臀部
蜥蜴に変身した女が鏡の前で
立ちすくんでいる
そしてしだいに部屋は闇へと包まれた
今の生活には
うんざりはしていたが
だれも人間をやめて
蜥蜴になりたいなどとは
考えたこともなかった
何でこんな姿になったのか
思い当たる節もなく
女
ひたすら泣き続ける
こんな姿になるんだったらもっと
飛んだことすればよかったとか
何小さいことでうじうじしてたんだとか
こんな私でももっと人の役に立つことが
あったのではないのだろうか
とか色々考えた
そして泣きじゃくった
しかし誰の耳にも届かない
ただ闇を這いずり回るばかり
足を止め女
過去の私、現在の私を振り返り
清めの涙流す
すると闇が涙を照らし
光の道を創った
光は遠くのほうまで続き
女は必死に這った
何年も何年も深い暗い影の中で
櫃に閉じ込められてた人間が蘇ったかのように
カーテンの間から差し込む日に目を細め
重たい体をふらつかせながら窓辺に向かう
そして現実を遮ってた
重々しいカーテンを開け
ああ 夢でよかったと
都会の影でひっそり住む女は呟いた