灯台
美砂

わたしは生まれてはじめて
暗い海の上を帰ってきた
海は、波は、そのたえまないざわめきは
常に舟をとりかこみ
あたりまえのようでありながら
のぞきこむと
そのたびに
あまりにも
おそろしくて
めまいがした
嘔吐したにおいさえ
あたたかく感じられるほどに
その下の寒々しいこと

だれも、みはってなどいないし、
だれか飛びこんだとしても
この暗さではだれも
きづかないだろう
飛びこんだなら、
鉄の蓋をされるように
その顔はすぐに
消えてしまうだろう
その波の下で
どれほど烈しい悶絶をくりひろげようと


ああ、灯台からの
あかりがみえてきたとき
帰りたい人にだけ
それが輝かしいのだときづいた
その長い光の静かな佇まい
心にまで響く
特別な光

死者は照らされない
成仏しきれない魂が
鬼火となって霧に浮いていたとしても
灯台は生きているもののために
光る
これから舟と
短い旅と別れ、
現実へ帰ってゆく
わたしたちのために



自由詩 灯台 Copyright 美砂 2007-07-15 23:08:16
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