腰越
服部 剛

大型台風は 
太平洋沿岸を次第に逸れて 
中心の(目)を閉じていった 

数年ぶりに
小動こゆるぎ岬に立てば 
鉛色の海に
幾重も立ち昇る 
龍の白波 

腰越港へと続く通りには 
焼けた体にハッピを羽織り
短髪に鉢巻絞めた 
潮の匂う男達 
台風一過の空からぱらつく 
天気雨を見上げ 
夜の祭りに備えている 

並んだ店のガラス戸から 
視線を感じて振り向くと 
閉じられた室内に並ぶ二人の武士 
巨漢の弁慶は両手を上げ 
細身の義経は細い瞳をしかめて槍を持つ 

  * 

車両二つ分の小さい駅で 
古いベンチに腰かける 

見下ろす線路の向こうに 
群がる草花は揺れ 
何処からか 
大きい尻を振りながら 
蜂が一匹やってきて 
桃色の小さい花の蜜を吸い 
また何処かへと飛んでゆく 

踏切が鳴り 
ブレーキの輪音を立て 
家々の壁とホームの間に 
ぴったりと入ってくる 
二両の江ノ電 

汗をかいた 
窓ガラスの向こうは 
鉛色の海に霞む
江ノ島の黒い面影 





自由詩 腰越 Copyright 服部 剛 2007-07-15 14:33:25
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