腰越
服部 剛
大型台風は
太平洋沿岸を次第に逸れて
中心の(目)を閉じていった
数年ぶりに
小動岬に立てば
鉛色の海に
幾重も立ち昇る
龍の白波
腰越港へと続く通りには
焼けた体にハッピを羽織り
短髪に鉢巻絞めた
潮の匂う男達
台風一過の空からぱらつく
天気雨を見上げ
夜の祭りに備えている
並んだ店のガラス戸から
視線を感じて振り向くと
閉じられた室内に並ぶ二人の武士
巨漢の弁慶は両手を上げ
細身の義経は細い瞳を顰めて槍を持つ
*
車両二つ分の小さい駅で
古いベンチに腰かける
見下ろす線路の向こうに
群がる草花は揺れ
何処からか
大きい尻を振りながら
蜂が一匹やってきて
桃色の小さい花の蜜を吸い
また何処かへと飛んでゆく
踏切が鳴り
ブレーキの輪音を立て
家々の壁とホームの間に
ぴったりと入ってくる
二両の江ノ電
汗をかいた
窓ガラスの向こうは
鉛色の海に霞む
江ノ島の黒い面影