"あなさびし"
ゆるこ

 
 
あなさびし、
って
三十回言うと
幸せになれるらしいよ
 
酷く輝いた瞳で言う君に
一抹の不安を抱えた僕は
言わなくていいよ

少年のように返した
 
別に言ってもいいじゃない
へるもんじゃないんだから

お構い無しに始める君を
防空壕の中から空を覗くような気持ちで
ひっそりと見ていた
 
 
三十回目のあなさびしは
とても綺麗な響きをして
世界の美しさを全て誘発させた
 
 
最後の、し
を言い切ると
君はまぁるい小人になった
 
酷く純粋に
にこり にこり
としていて
 
自分から僕の胸ポケットにもぐりこんだ
 
 
君は小さな声で、
おやすみ、
というと
静かに僕の心臓に吸収された
 
 
真っ赤になった僕の瞳は
なにもかもが嘘に思えて
 
迷わず三十回の幸せを唱え始めた


自由詩 "あなさびし" Copyright ゆるこ 2007-07-15 02:36:05
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