月下美人
悠詩
罪咎の月光が降り注ぐ
身体の冷えた僕には
その暖かさはあまりに残酷で
君がいるはずだった世界を
壊してしまったこの手には
その暖かさはあまりに無慈悲で
テラスの鉢植えも
白を誘うカーテンも
僕だけが苛まれていることを知らない
天から垂れる紅い糸は
僕の手を絡め取って離さない
たったひとひらのお札で
君の命を買った
確かめあったふたりの愛が
いつか形になることを夢見て
部屋の隅につつましやかに佇む君を
僕は抱きしめることも叶わず
脆弱さを妬みながら
ずっと眺めていた
あの冬の日
南国生まれの君には
日本の吐息も言葉も光も
あまりに冷たすぎて
凍えないようにと
毎日飽きんばかりの暖かさを
与えていたのに
たった一度の不注意で
君は深く傷ついて
挿木をも失敗し
必死の看病もむなしく
変わり果てた君の姿が痛々しく
苦しみの叫びがとても痛々しく
僕は君の命を絶った
真っ赤な血がこの手を伝っていった
たったひとひらのお札で出逢った君と
ずっと過ごした三ヶ月間に
いったいどんな価値があったのだろう
愛は偽りじゃあなかった
でもたったひとひらのお札で
新しい愛を
あるいは慰みを
手に入れられると気づいた時に
惜しみない愛は嘘になった
わかっていた
たとえ君が苦しんでいようと
白い愛は花開く義務があるのだと
白い愛は花開く権利があるのだと
僕は
病に冒された君が
畸形の愛を結実させることが恐かった
僕の裏切りを受けて
裏切りの花を咲かせることに耐えられなかった
苦しんでいる君を見るのが辛く
僕を苦しませる脆弱な君が憎く
おまえなんて死んでしまえと
叫びたいのを必死にこらえ
僕は安楽死とかこつけて
君の義務と権利を奪った
勇気ある決断なんて
存在したんですか?
代替の愛に保険をかけた僕はただの
卑怯者だったんですか?
君を愛していたと信じて
たったひとひらのお札を握りしめ
躊躇しているこの手は
罪なのですか?
君の最期に流した血には
どんな言葉がこめられているのですか?
教えて下さい
君の命を絶ったこの手の意味を
罪咎の月光が降り注ぐ
身体の冷えた僕には
その暖かさはあまりに残酷で
君がいるはずだった世界を
壊してしまったこの手には
その暖かさはあまりに無慈悲で
テラスの鉢植えも
白を誘うカーテンも
僕だけが苛まれていることを知らない
月は
テラスの鉢植えも
白を誘うカーテンも
紅い糸に絡め取られた僕をも
暖かい光で照らしていることを
僕は知るよしもなく