青い旋律
桜井小春

汗がそうであるように

涙がそうであるように

この胸の中には海がある。



私は一頭のザトウクジラに恋をした。

優雅に泳ぐ様が

アルペジオによく似ている。

勢いよく潮を噴き上げる様が

フォルテッシモを思わせる。



久しぶりにピアノを弾いてみようか。

ペダルを踏んで

和音を奏でてみようか。

彼に届けばいいと思う。

彼の耳に心地良いのは

もう1オクターブ上だろうか。



私の音楽など

海から聴こえる唄に比べれば

ただの音にしかすぎない。



私が眠りにつく頃

彼は海の最果てへとたどり着く。



果てなど無い。

終わりは始まりであるから。

私の回線が巡りゆくように

メビウスの輪はいずれこちら側へと裏返る。



触れたい、と、指先が泣いている。

沈みたい、と、脊髄が軋んでいる。



海底を望んでも無駄。

レクイエムなどいらない。

目を閉じるだけ。

五感の全てに蓋をするだけ。



廃船の帆の切れ端を身に纏い

あなたに逢いに行きます。





自由詩 青い旋律 Copyright 桜井小春 2007-07-14 00:55:44
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