玻璃の海から
石瀬琳々

こんな夜、
一人浅い夢から目覚めて
窓外を揺れる葉擦れのざわめきに
わずかに明るむ緩やかな月光に
胸に満ちて来る何ものか
心を澄ますと潮騒の響きに似て
耐えきれなくなる 抑えきれなくなる


裸足で歩む真夜中は孤独の渚
グラスに注ぐ水道水のこぼれる光りが痛い
口に含むと海の味がして
また胸に満ちて来る蒼いくるめき
まるで予兆にも似ている
指先からすべり落ちたグラスが割れて
床に広がる水が足先を濡らすのは


ああ 待っていたの
ひざまずいてその水にくちづけをする
顔を浸すと浮かび上がって来る
あなたの愛しい姿が


夜海を漂う人をそっと抱きしめる
瞬く間に時の流砂に足をからめ取られて
このまま溺れていってしまったとしても
葉擦れはもう囁き交わす事はない
月光はもはやすべってゆく事もない
ただ深い海に沈んでゆくだけの
こんな夜




自由詩 玻璃の海から Copyright 石瀬琳々 2007-07-13 14:35:59
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