夏風
雨宮 之人

何度目かの夏が来て
また僕はさよならをしなきゃならない
こんにちはもしなきゃならない
どこかから来た夏に
どこかへ行ってしまう夏に

僕たちは
誰かの終わりから始まった
ということは続きだ
さてまた始まるよ
とりあえず夏は始まったよ

僕たちは
生きているという
だからこんにちは
だからさようなら
これを目にしたあなたに僕は告げる

生きるって
要するにそれは
終わらないレールの上を歩いているってことだ
時計の針を、戻しながら

背中に沢山のさよならを
乗せて、手を、振って
東から西へ
とぼとぼと一人ぼっちで
ステア・アップ・トゥ・ヘヴン・フロム・ヒア
そして誰かが続きを歩く
僕の続き
あなたの、続き

物語は、あるよ
確かにある
僕が語ればそれは
今までを語るようにすればそれは
物語になる

でも語らない
そして生きているよ
作り物ばかりの現実を
見えているだけものは
心がないから嫌だ
僕は中身に興味がある

夏は
透けて見えるから好きだ
下心が
あなたの、心が
冬は
だめだ
心が、閉じこもって
見えない

夏が来たよ
だからこんにちは
握手でもしよう
そしてさようなら
いつかはどこかでさようなら
知っているから
僕はもう寂しくないんだ

信じているよ
永遠だった夏休みを
匂い立っているそのにおいを
それから大人になれなくなった僕を

永遠に
永遠に広がる夏に
風が
風がほら吹き抜けて
永遠だろ
ほら僕たちは終わらない物語を
語らないから
心の中に秘めて歩くから

織り合わされたそれは
だから
永遠だろ
いつまでも いつまでも

ほら 夏が来る


自由詩 夏風 Copyright 雨宮 之人 2007-07-13 03:47:52
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