パラソル
小川 葉

真夏の砂浜の
パラソルの下の
ちゃぶ台に
貧乏な親子の
食卓があって
その隣には
サンオイルで
てかてかと輝く
若い女が
こうらぼしをしていて
やきすぎると
肌に悪いと思ったのか
おもむろに
貧乏な食卓に歩みより
その無意味な
パラソル
使わないなら
ちょうだいよ
と言うと父親が
この無意味な食卓なら
やってもいい
と言うと母親は
私の気持ちも
知らないで
と言って
子供たちを
抱きしめ泣くのだった
海の家から
焼きそばが焼き上がる
いい匂いがしてきて
抱きしめられていた
子供たちは
母親の腕をふりはらって
そちらの方へ行くにつられて
父親までもが食卓を捨てて
焼きそばに行ってしまい
気づけばパラソルの下に
二人の女が残り
どちらからということもなく
とりとめのない
女同士特有の
無意味なおしゃべりが
真夏の砂浜の
パラソルの下
ちゃぶ台をかこんで
意味を構築しはじめる
しばらくして
父親と子供たちが
焼きそばを運んできても
気にすることもなく
女同士のおしゃべりは続き
いつしかそこは
家庭と呼ばれる場所に
なっていた
それ以来
パラソルは
二人の女の肌を
強固に
守り続けてきた


自由詩 パラソル Copyright 小川 葉 2007-07-11 02:30:11
notebook Home 戻る