放牧
日向夕美

晧々、繋ぐ道

くしゃりくしゃなり
草いきれに隠れて耳を当て、浅緑を喰む羊の腹にもたれかかる。いつしか眠りに落ちた(べったりと頬から鼻腔、この匂いを識っている


立ち上がり、方々の出口へ連なる人々の声、こえ。に目を覚ました。眼前ではエンドロールが繰られ四方の電球が場内を次第に鮮明にする。声、こえ。おおきな長方形に、磨りガラスみたいな痺れを見た。リールを巻く規則的な音に、ふたたび目を閉じる(からっぽの、からくり、からっぽの、からっかぜ


水車が夕陽を撹拌していて、思わず耳を塞ぐ。ゆっくり顔を上げると、点灯夫と目が合った。羊が春を喰うてしまうのです、口唇の動きはそう言っているような気がした。浅紺の天鵞絨が羊の腹には巣くっている、だからこうして、灯を点すのだ、と。(ぽっかりとした羊の中で、胃のかたちになる(スクリーンが水車の影を映している


浅緑に突っ伏していた。涙で溶けた草草はべったりと頬から鼻腔。
春をやり過ごすために、羊を連れて、眠る。

晧々、連なる灯



自由詩 放牧 Copyright 日向夕美 2007-07-11 00:17:48
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