栽培お母さん
なかがわひろか

私にはもうずっと
お母さんがいなかったので
育ててみることにしました

鉢を買って土の中にお母さんの種を植えて
毎日毎日水をやりました
お母さんは日々順調に育ってくれて
そのうちに普通のお母さんくらいに育ってくれました

私にお母さんができました

お母さんは何もしません
いつもテレビを見て
時々笑ったり
怒ったりします

私は毎日ご飯の用意をして
洗濯をして部屋を掃除して
そんな毎日を送っています

けれど
学校から帰ってお家のドアを開けると
そこにはお母さんがいます
私にとっては
それがとても
幸せなことなのです

私は普通の人が経験する
反抗期やそういったものを何も経験しないまま
大人になりました
どうしてお母さんに反抗しなければならないのでしょう
私にとってお母さんはとても大切な存在なのです

ある日お母さんがとても苦しそうにしていました
初めてお母さんを育ててから
もう何年も経ちます
お母さんはもう大分年を取りました

お母さんは寝たきりになりました
私は毎日お母さんの看病をします
それでもお母さんは
毎日死に向かっています
それはもう止められないようです

お母さん
お母さん

お母さんは枯れてしまいました
お母さんは最期まで何もしゃべりませんでした
それでも
お母さんは私にとってたった一人のお母さんでした

私はお母さんを育てた鉢を割りました
私はもうお母さんを育てることはないでしょう

お母さん
お母さん

私はもうすぐ
母になります

(「栽培お母さん」)


自由詩 栽培お母さん Copyright なかがわひろか 2007-07-10 02:25:51
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