リスク、
望月 ゆき




夜が、二足歩行で
足早に通り過ぎていく音を
淡い錯覚にくるまりながら、聴いていた
抱きしめあう行為は どこか
呼吸と似ていて、ときどき
わたしたちは声を漏らす
ともすれば 
この部屋に充満しそうになる 孤独に、
上書きするためだけの



遠ざかる、オノマトペ
曖昧に音階をずらしながら消えていく、それに
反芻してしまわないよう
はやいため息を かぶせる
閉じられた耳の、
奥の、ずっと奥で、あのひとの指が 
今も 愛撫をつづけている



半音だけずれたまま はじまる、あした
そうして また
慣れない左足から 踏み出しては
おんなじところばかり、すりむくのだろう
二足歩行が得意な、夜に
傷つきたがるわたしたちの 悪い癖
かさぶた、その下の
リスク、



常夜灯をたよりに つま先から
てっぺんへと、たどると
用意されていた視界が 落下して
朝が 見え隠れする
ひらかれていく、内側
まだ再生されないままの 皮膚に 
遠くの給水塔から
きのうの雨のにおいが流れこんでくるので
どんなに深く、
深く抱きしめられても たぶん、
泣いてしまう





自由詩 リスク、 Copyright 望月 ゆき 2007-07-09 23:58:01
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