風ノ人
服部 剛
二十一世紀の
ある青年は日々
( 姿の無い誰か )が
自分を呼んでいる気がした
*
二千年前の遠い異国で
ある村の漁師は湖の畔に立っていると
背後を誰かが通りすぎ
( わたしについてきなさい・・・ )
漁師は手にした網をすぐに離し
人の姿で生きていた
( 風ノ人 )の
不思議な背中についていった
村の貧しい家々をまわり
独り死を迎える
痩せこけた老人の枕元に坐ると
( 風ノ人 )は
黙って細い手を握り
窪んだ瞳が潤むのを
じっとみつめた
*
二十一世紀の
ある青年は
いつも寝る前に
( 風ノ人 )
という本を読んでいた
本を閉じ
独りの夜に耳を澄ます
( わたしについてきなさい・・・ )
二千年前の
漁師に語りかけた
あの声が
何処か遠くから
耳元に囁く