呼吸
小川 葉

よほど
苦しかったのか
あなたは
泡をはきながら
空高く水面へ
浮かんでいった

えら呼吸が
苦手なわけでは
なかったが
ときどき
疲れてくると
肺呼吸してしまう
悪い癖があった

頭上を
ゆっくりと横切る
飛行機が
船に見えたとき
ひとはおびえ
そこが
海であると
錯覚して
えら呼吸を
はじめるのだという

夜空の波間を
漂うあなたがいる
そこも
錯覚に満ちた
虚構の世界
かもしれない
けれども

何も変わらない
ほんとうのことは
それぞれの
心の中にしかない
けれど
この世界に
あなたと私が
存在していることは
たしかに
真実なのだ


自由詩 呼吸 Copyright 小川 葉 2007-07-09 01:51:57
notebook Home 戻る