零れ落ちた太陽の下で
結城 森士

朝の光、朝の 黒い夢の中で
揺れる窓際―――(揺れている)
全身が、濡れている
水が 僕の 周りに 落ちる

空中で横になり
妖精達が、太陽に向かって飛び立つ、夢を見る
薔薇とチューリップ  太陽が瞼を染める
……。
夢を見る。身体は溶けていく
意識もなくなってしまえば、
どんなにか楽だろう。
傾斜は8度
紅い妖精達が揺れている
黒い地面から、生まれてきたのだ

彼女達の意味、水に靡く王女の髪
成功した花占い、失われた声


*


夢想し、飛行し
航海船が、僕を追い越す
僕は青い奇声を、あげる
波が飛沫を、あげる
空は僕の身体を
ゆっくりと包む
海に落ちつ
潮騒は孕む
夢、
風、
太陽は、
海に落ちつ…





…朝色の水彩絵具が一滴だけ落ちて
鍵穴の暗闇に陥るように
緊張した瞳で開ける蜘蛛の糸のような朝。
   (張り詰めたガラスの向こう側を
   マンボウはゆっくりと飛ぶ。
   熱帯魚は7色で話しかける。
   深海魚は静かに瞳を閉じる。
   すべての暖かい目で喜びを与えたい。)

 私は階段を駆け上がりドアの向こう側へ飛び出す
そして足を前へ突き出したけれども外はあまりにも眩し過ぎた
母が苺ミルクを買ってきてくれたけれども
穏やかな温もりが不安に変わっていくのを感じて…
深海魚は静かに瞳を閉じる。

 私は階段を駆け下りて朝の陽だまりを飛び越えて行く
張り詰めたガラスの向こう側で、たくさんの人間が鞄を運んで歩いていく
風と共に通り抜けていった朝の匂い
   (おはよう、みんなおはよう!)
 声が、帰ってこない。

 暗闇に落とした夜色の水彩絵具が全ての穏やかな微笑を黒く染める頃
影となって地に堕ちていった感情、私が/
 私が何も考えることの無い人間に変わっていくのを
何についても考えることのない地面に消えていくのを…
   (黙って、静かに瞳を閉じる。)
 朝が、帰ってこない。





一人の
絶望した男が
余力のある限り
絶叫した、その声すら
僕らには聞こえなかった


自由詩 零れ落ちた太陽の下で Copyright 結城 森士 2007-07-09 00:41:30
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