まつり縫い
悠詩

乳母車の乳児のバイバイに
こたえた手
布の端をひとかがり

  だっこされている乳児を
  泣かせた作り笑い
  布の裏に斜めの縫い目を見た

横断歩道を渡る小学生に
掲げた手
布の端をひとかがり

  「ブス」吐き捨てて逃げた小学生を
  見送った愛想笑い
  布の裏にいびつな縫い目を見た

元気な宅配のお兄さんに印鑑を
押した手
布の端をひとかがり

  武勇譚をけみさせたポマードを
  おだてた空笑い
  布の裏に大きな縫い目を見た

こちらを認めてくれた貴方に
包まれた手
布の端をひとかがり

  将来が心配と皮肉った姑を
  受け流した追従笑い
  布の裏に届かない縫い目を見た


できあがったスカートを娘に
履かせた手

「くすぐったいよ」

笑った娘にそっと囁いた

(ちょっとへたっぴだけど
 我慢してね)

たどたどしく喋った手を
握り締めてくれた娘の手




一生懸命なかがりを見られるのは
着た人の心だけ


自由詩 まつり縫い Copyright 悠詩 2007-07-08 11:44:17
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