一度きりのプラネタリウム
円谷一
僕は何度も星の詩を書いたけれどまだ書き切れていないんだ
僕に羽があったなら君の元へと飛んでいくのに
けどそんなの無理だから夢の中で君と一度だけ見たプラネタリウムを見て涙を流していたんだ
そのプラネタリウムは閉館になって 僕は本物の夜空を見るようになった 一人で雪原に寝転がってさ 君と指さした星座を見つけて思い出すんだ
僕は大塚愛の「プラネタリウム」を聴きながら満天の星空を瞼で閉じ込めて 自分が何者でも無いような気分になる そして雪原と同化して宇宙と同化するんだ 星が僕の周りを飛んでいるよ 浮いている星を捕まえるととても暖かい爆発を起こして消えていくんだ アスファルトに溜まった水溜まりのような匂いがする宇宙をひたすら歩いていって 星を避けながら君のいる街へと向かっていく そこには僕達の夢が一杯詰まっていて あの閉館して壊されたプラネタリウムもあるんだ 星座達が動き回って僕の向かう先へと導いてくれる みんなこの曲に合わせて踊っているんだよ
君の街は星でできていて 星を積んで造られた家 星を灯す外灯 星が実る街路樹なんかがある 宇宙には時間が無いんだ 両方の意味で でも千切れる度合いの方が大きい
空は黒く 星座達がすぐ近くにいる 星の井戸には沢山の星が沈んでいて それはここで死んだもの達の魂だという 魂から滲みだしたエキスが生き物達の寿命を延ばしてくれる
君は地球を使って生き物達や宇宙達の運命を占っている 君の手は暖かく地球に住んでいる生き物達は安全に暮らしている
僕は君の家に行って水晶代わりに大切に守っている地球を見せて貰った 宇宙を超えた世界中で一番美しいと言われている地球 この中で小さな命が毎日懸命に生きているんだね と僕は言った 君に逢えて良かった
僕と君はプラネタリウムを見に行って 遠くなりつつある昔を思い出した 思い出はここで生きている たとえ忘れて生きていって 死ぬ前に思い出しても ここは僕を待ってくれている 胸の中で 僕は生きている どくん どくんと
流星が流れて 僕は一つの願い事が叶ったことを知った 僕の望みは君に逢うことだ 本当の世界で 虚構の世界に慣れすぎてしまった僕には果たして叶えられることなのだろうか
君も街も消えていって 僕は雪原の上で倒れている 君が好きだった「プラネタリウム」 僕は隣で口ずさんだ君の姿を思い出して 流れ星のような涙が流れていくのを感じた 夜はまだ明けない 渺渺とした雪原 僕が何かしなければ世界は動かない 僕はゆっくりと歩き出した 明日の方角へと それが何処に続いているのかは分からない でも背景も無視して 僕は同じ心持ちで歩き続けるんだ そうすれば 身も心も果てた後でも 君の元へと辿り着けることができるんだよ? その時は僕と君は混ざり合って世界のホワイトホールになることができる 僕と君で創造し 平和を手に入れることができるんだ