抱き枕のラブソング
楠木理沙

君は いつも僕と一緒にベッドに潜り込んだ
強く抱きしめてくれて 優しく口付けをしてくれた
明け方にはベッドから落とされてしまうけど それも含めて 僕には至福の夜だったんだ
僕は君の恋人なんだって 勝手に思っていたんだ



あいつが来たあの夜から 僕は押入れに押し込められ 一人寝続けることになった
でも むしろそのことには感謝していたんだ
断続的に響く 押し殺した高い声とうめくような低い声 ぎしぎしと音を立てるベッド 
僕には その光景を間近で見ることは とてもできなかったから
じゃれあう二人の幸せに満ちた声は 僕をひどく孤独にさせ 憂鬱にさせた
できるなら つけっぱなしにされたテレビから流れる砂嵐が すべてを飲み込んでほしかったんだ



ある日 君は突然押入れを開けて僕を引っ張り出すと 一緒にベッドに飛び込こみ 強く抱きしめた
こんなに強く抱きしめられたのは 初めてだった
僕に顔を押し付け 嗚咽交じりの声を上げ やがて悲しい寝息を立てた 
君は 一晩中僕を抱きしめた 久しぶりの 君のぬくもり



ああ 僕は君の一番じゃない これまでも これからも 
気づかないふりをしていたけれど もう それも今日でおしまいだ
僕ではないということ 僕ではだめだということ



だけど いまの君を抱きしめているのは 抱きしめられるのは 世界中で僕だけなんだ
それが どうしようもなく誇りに思えて 苦しくて 涙が止まらないんだよ



きっと もうすぐ目覚める君は しみだらけになった僕を洗濯機へ投げ込むだろう
いつものように 計量カップいっぱいに入れた 多すぎる洗剤と一緒に
だけど 今日だけはそれも悪くないって思えるんだ
洗い流してくれよ 君の悲しみの跡を そして 僕の悲しみの跡を


自由詩 抱き枕のラブソング Copyright 楠木理沙 2007-07-07 22:44:50
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