冷凍船を拿捕する実験艦シュレスヴィヒ・ホルスタイン
大村 浩一

「腹が減っては女も犯せん」

三度三度の食事が何よりも大切な
実験艦シュレスヴィヒ・ホルスタインではこの度
今次航海の慢性的(万世にあらず)生鮮食料品の不足を解消するため
クランケ艦長のポケット戦艦「アドミラル・シェア」の戦訓に鑑み  ※1
冷凍船を拿捕することに決定した。
ひと度こういう動物的目的が決まると男どもは早い
怪しい恥ずかし探検隊より手際よく総員配置
レイセオン社製の商用レーダーが回転し
臨検隊隊長・畜苦李(チクリ)先生は愛用クジリ針を磨きつつ待機  ※2
エムデン陸戦隊ゆかりの4基の水冷機関銃も
船底武器庫から引き出されて妖しく黒光り
電探に反応アリ!
夕暮れ迫る水平線上に船影が現れる
建造時最高16ノットのレシプロ蒸気機関も
たび重なる異常な改造と整備不良のため
いまでは全速力で10ノットがやっと
復元性不良のためひっくり返りそうにヨタヨタ走る
それでも船足の鈍った相手に追いつくことが出来たのは
放っておくと沈没するのでは、と相手が危ぶんでのことか
それとも牛にならった白黒ブチのミル姉さん風迷彩やら
コークやペプシやハイアースの由美かおる看板、
「みなしの」「あのよろし」など意味不明の垂れ幕やネオン
「どこでイク?」のステ看板で飾り立てられた異様な姿に
警戒感よりは好奇心が働いたものか
相手の船尾には日の丸へんぽんとひるがえり
マルペ海運の冷凍船「第三東京市丸」と分かる
充分接近したところで「停船セヨ」の発光信号浴びせ
28センチ砲と水冷機関銃が威嚇射撃を開始
「ン〜突撃イィィィ〜〜〜」
母船と同じく白黒ブチ迷彩の機動艇「子牛くん」で臨検隊発進
舷側の縄梯子駆け上がり
ギャーつくお出迎えご苦労様ですと ※3
畜苦李(チクリ)先生やや玉置宏風に口先柔らかめながら
冷蔵庫から卵をとり出そうとする飯盛女の顔面殴りつけ
男は殺し女は犯す大藪春彦式殲滅法に準拠
船員たちを後部上甲板に集め身ぐるみひっぺがす
セイコーシチズンカシオまきあげる様はまるで貧乏国の税関吏
食堂に到着すれば夕飯の支度中
花やしきの日本初コースターよろしく中央へ突入
ちゃぶ台に土足でかけ上がり
馬力の夕飯に薄味白身魚とは何事かと ※4
山盛り飯にヤマサ醤油をぶちまけがっぽがっぽとむさぼり
すると奥さんおおこの感じです食欲の目覚めがいまここで
立ち魔羅となってぐんぐん催してきたのでありますと
案内させたる先ほどの四十半ばの飯盛女をば、じと目で眺め
豚の妻よりゃまし「あんたでええわ」と現実的な妥協
畜苦李(チクリ)先生やおら飯盛女の顔面をば38文で蹴り上げ
泡吹く口元蝿が止まるまで殴りつけ
ずるずるとちゃぶ台に乗せさあ奥さんいただきまあす
給食の白エプロンあられも無くまくりあげれば
驚天動地のマニアックゴム長靴でノーパンなり!
どうやらこの飯盛女、船長のイロであったらしく
そうと分かればなおさら遠慮は無用
ブラザー電子ミシン真っ青の針運びで
先生縦横無尽思いのままゴム長の香る股間をクジリまくる
チクチクチクチクムズムズムズムズアヘ〜
いまここで気絶されては困りますからしゃんとして下さいよと ※3
さらに縦横無尽に股間をクジリまくり
ズドーンとイクイク果ての潮吹きで応えるや
飯盛女の白目むく大仰に手をふりながら
畜苦李(チクリ)先生カトキチ冷凍エビフライがりがりと生でかじりつつ
満腹ののち船内捜索をおもむろに再開
冷蔵庫には9千トンの肉と900トンの卵
先生あこがれの秘技「むちむちぷりんぷりん卵責め」には充分なれど  ※5
もうひとつの目的「生娘」が遂に発見できず
臨検隊隊長・畜苦李(チクリ)先生は実に忿懣やるかたなし
しかたなく西瓜に飯盛女の虫食いパンツ穿かせ
クジリ針をばボフォース機関砲の如く乱れ打ち跡形もなく粉砕
 
 
「アドミラル・シェア」の豊かな食生活は
クランケ艦長以下の胃袋を満たし乗員の情緒を安定せしめ
結果ポケット戦艦のその後の戦闘行動を極めて円滑化し
艦は稀にみる神の恩寵を受ける事とあいなったが
わが実験艦「シュレスウィッヒ・ホルスタイン」の場合は
もともと血の気が多い上に目的の無いさすらいの航海
こんどは女だとばかりに男どもは血眼で見回すが
幸か不幸か水平線には誰も何も居ない
ニワトリ数羽と羊とブタ数匹がたちまち犠牲となり
航海長は勝手に針路をカムラン湾に向けてホームスピード
大食堂ではベトナム女郎宿までなんとかもたせるための
阿片ミルクパーティ
楽隊はシラーの歌詞の交響曲をかなで
マイセンから便器まで全ての陶器を破壊すべく大喧嘩もはじまった
サブマリン737のブン殴り副長め今夜こそ成敗せんと
北欧の高価なアール・デコの椅子を脚持ってふり回す
誇り高き「エムデン陸戦隊」の隊長のまたいとこの
ミュッケ艦長の瞳には
このごろ異様な輝きが
止むことなく宿るようになった。


 註

※1 第二次大戦初期の独ポケット戦艦「アドミラル・シェア」に
よる冷凍船「デュケサ」拿捕は通商破壊作戦中の偶然であり、食料
確保を狙って意図的に行ったものではない。クランケ艦長の著書に
よればジュネーブ協定を満たした国家間の戦闘行為であり、残虐行
為はなかったと言う。但し捕獲された食料品を、冷凍船の燃料が尽
きるまでの間、艦長以下乗組員が堪能したのは事実である。
 今回の「実験艦シュレスヴィヒ・ホルスタイン」の場合は戦争中
の国家間の戦闘行為ではなく、ただの公海上の犯罪行為である。

※2 谷岡ヤスジの漫画の諸作品より。
※3 ねじめ正一 詩『脳膜メンマ』より部分引用
※4    同   『ヤマサ醤油』より部分引用
 但しこの詩では全般に、この二作はごちゃまぜに引用されている。
※5 江口寿史の漫画『すすめ! パイレーツ』より

初稿 2000/03/28〜06/06
初出 「タデクイ」5号 2002年2月


自由詩 冷凍船を拿捕する実験艦シュレスヴィヒ・ホルスタイン Copyright 大村 浩一 2007-07-07 17:13:17
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