月の裏側
悠詩

月の裏側が見たいと
弟が呟いた
瞳はもう
赤方偏移を繰っているように
白兎を歌って

憧れと諦めをわたしに託して
弟はもう
腐りかけた足で
旅に出ていた

痛々しいほどに頑張りすぎて
励ます間がないほどに忙しすぎて
気づいた時にはもう
小さな背中は

そんなに遠くに行っちゃったら
月なんて見えないでしょう?
悔しくて空を睨んだら
あさっての方向から
弟が振り返った

清々しく
安らかな
笑顔だった

  馬鹿だなあ
  僕がどこにいるかなんて
  姉さんは知らないだろ?

弟に託された
長く短い旅の記録を
庭の笹の葉にゆわえつけた

わたしの知らない十等星が
わたしの知ってる一等星が
白兎と一緒に
駆け回れますように


自由詩 月の裏側 Copyright 悠詩 2007-07-07 12:29:34
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