一途
水在らあらあ






                 ―健二に





包丁一本さらしに巻いて
君は西洋にやってきた
言葉なんて何にも知らないのに
義理人情
いろんな人を愛し 愛され

毎日包丁を研ぐ
それはこの西洋の高い青空に切れ目を入れる
そこから滴るものが
おれたちのつまみになる
レストランから高いワインをくすねて

きれいな子おおいわ ほんま この街
ああ、一日に二回ぐらい心臓止まるかと思うぜ
それにしたらここの男はひどいわ
いや それがいいと思うよ
美女と野獣っちゅうやつやな
ああ、おれも女の子は美しくあればいいと思う
そらそうや そいで男は強くて何ぼや
そんなの俺たちがマンモス追っかけてた頃から変わってへん
その頃は主婦もたのしかっただろうな
今の主婦は 一人になりすぎや
ああ テレビは捨てて 洗濯を全部自分の手ですればいい
そして 愛したらいい
なあ
腕相撲しようか
巡礼でついた筋肉だぜ
まけたら 次の酒おごりな

麻子っていうんや
おまえの彼女に似てるわ
抜けてる
世界を子供のまんまの瞳で見てる
ああ、子供なんや
だから俺はバイク買って
このバスクの山岳地帯を
めちゃくちゃ走ったるで
あいつを乗せて
あいつだけを乗せて
秋が来たら
キノコ狩りに行って
渡り鳥撃ちに行こな
あのくちばしがきれいな鳥
レストランに売るの違法なのに
秋んなったらどこのレストランにもあるかんな
なんちゅう国やここは
ゆるすぎるわ何もかも
なあ、あのポルトガルの娘 可愛かったやろ
でも俺はやっぱり日本人がいいんや
俺は日本人なんや
おまえこの土地で死ぬ気か
この土地に埋められていいんか
灰 海にまいてくれって
そういうわけにはいかんやろ
でもおまえはそれでええんか
おまえは な ゲージツとかすんねんから
爆発やねんから な
アートやろ な それも

なあ おれたちの空は繋がってるんだぜ
地球はもうだいぶ前から丸いんだぜ
日本が嫌で外に出た俺に
日本を好きにさせたあのこのことを俺は今も思う
だって俺達はこの公園の木の葉っぱみたいなもんで
ひらひら舞って
近くに落ちて
それは偶然で
偶然は運命で
そこに火をつける
必然は意志で
でもその偶然は
その偶然は

なにゆうてんねん
愛情や
愛情
おまえの愛情は
どこに在るかっちゅうことや
大切にしたれよ
おまえほんまにどうしょうもないわ
国立の子とか言ってて
おまえまだここにいるやんか
もっと優しくしたれよ
死ぬ気なんやろおまえここで

ああ、死ぬよ
それで
風に
流れるよ
愛情は 
君が言う愛情は
散らばって
それを海が抱くんだよ
俺の愛情は
潮騒に呪われていて
今から散っていて
抱かれていて

呪われているんだ 
俺は 海に

なあ
腕相撲
しようぜ


あほか
俺のほうが
絶対勝つわ
腕相撲したら
おまえと本気でしたら
腕折れてしまうわ
首もついでに折ってまうわ
おまえ
言うたるわ
宿命や
おまえは此処に来たんや
流れ着いたのが宿命や
そして此処で死ぬんや
それを
おまえはこの国の大地に
あの子の胸の上かそのもっと下に誓ったんや
それかおまえは誓われたんや あの子に
どっちも一緒や
もったないで ほんま
あんないい子 あんなきれいな子 
おまえにもったないで


なあ
愛情
愛情って
知ってんのかよ
そんなものどこにでも散らばるのに
そんなものどこにでも行っちゃうのに
俺なんかよりもずっと船乗りなのに
みんな好きなのに
みんな大好きなのに



なら大切にしたらいい
全部大切にするしかない
おまえはそんな星の下に生まれたんや
大切に散らばしてゆくしかないんや
人々にあげるばっかりで
愛情とか言って傷つけるばっかりで で おまえはなんや 傷だらけやんか
それでそうやっていつも安いウイスキー飲んで毎日下痢してるしかないんや
大切に大切に散らばして
おまえは風に流れて



おまえは風に流れて どこ行くか知らんけど
俺は風に乗る

くっだらねえ風だ カモメのジョナサンだったら
無視するぜ それ なによ
金か 名誉か それとも 女か
日本で数え切れないほど女を抱いて
それに飽きて包丁もってこっち出てきたおまえがよく言うぜ

ああ なんとでも言え
俺はこの風に乗るんや 麻子っていう風や
一途は 帆や もう決めたんや
おまえ船乗りのくせに帆もないんか
帆がない船でどこに行くんや


あるよ
あるよ 
たくさんあるよ
だから何処へでもいけるんだよ
どこかに行かなくちゃいけないんだよ
どこか 遠いところに
わかるか
君にそれがわかるか









わかるか






わからへん






まだ
わからへんけど
なあ 
あほや
痛いわ
殴り合って
意味あんのか








ああ
痛いね
意味は
無くていいよ








なあ



月が出ている
















自由詩 一途 Copyright 水在らあらあ 2007-07-06 08:38:36
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