ジャックは豆の木に登らない
小原あき
ジャックは豆の木に登らない
代わりに木の台に座る
そうすると
(地面にいる虫たちに邪魔されない)
らしい
犬らしくないジャックは
だけど、海賊でもない
ただのジャックだった
犬らしくない
ジャックだった
ミニィには頭が上がらないらしい
私とミニィが通り過ぎると
(ミニィさん、今日も良い天気ですね)
と木の台に座り
落ちそうになりながら
腰をめいっぱい
低くして話す
ああ、ジャック!
ミニィはきみの
三分の一くらいの
大きさしかないと言うのに!
いくら犬らしくなくても
犬世界の
年功序列は守るらしい
犬らしくないジャックは
だけど、医者でもない
自分の手術ができるわけもなく
風邪をひいたらドライフードは食べない
少し犬らしいジャックだった
ドライフードに
缶詰を混ぜたご飯が好きなポチに
よく似ているジャック
わたしを見かけては
(こんにちは、今日も良い天気ですね)
と話す
もちろん
木の台に座りながら
一日中
木の台に座りながら
背筋を伸ばしている
威張っているわけではなく
そうすると
(空気がおいしく感じるのです)
ああ、ジャック!
ポチによく似ているジャック!
でも、よく考えてみたら
雑種はみんな
同じに見える
犬らしくないジャックは
だけど、ジャック・ラッセル・テリアでもない
中肉中背
ぼさぼさヘアの
雑種犬ジャックだった
それでも
綺麗な羽根を持っている
小鳥のような気分で
止まり木にとまっているかのごとく
木の台に座り続ける
いつだったか
(今日も良い天気ですね)
いつもの挨拶の後
(こんなに空気がおいしいと空に飛べそうです)
そんなきみに
いつか羽根が生えること
信じている
ジャックの名前の所以は知らない
きっと、ジャックも知らない
だけど、そこにいるのは
ただのジャックだった
犬らしくないジャック
海賊ではないジャック
医者ではないジャック
雑種犬のジャック
ただの中型犬
もちろん鳥になんて
なれない
だけど、
愛情たっぷり
ジャック専用
特製の木の台に
ピン、と背筋を伸ばして
今日も空気を
虫に邪魔されることなく
味わっている
横を通り過ぎると
(こんにちは、今日も良い天気ですね)
と言うのだろう
ああ、ジャック!