風待ち
佐野権太
若草色のかざぐるまに
しがみついていた、あの人が
夕風にさらわれて
私の中を流れてゆきます
水たまりの映す青さの
ほんとうを
確かめるまえに
軽々と飛び越えて
もう
行ってしまった
両肘を抱きしめたのは
半袖のシャツが
まだ、肌寒いから
指さきに巻いた髪の
ほどけるような
かすかな優しさが
好きでした
*
あの人のいた季節を
順番に飛び立ってゆく
鳥たちは
手をふるかたちのまま
小さく遠ざかる
最後尾に並んで
私は
まだ少し湿った雲の隙間に
水色の風を探してる
ソーダ水の瓶の触れ合う
涼しげな音色は
いつかの夏の
溶けてゆく、光り
ほんとうは
泣きたかった
はぐれてから
ずっと