想像と行動の結果
円谷一
君と曲がりくねった梅の道を行く 霧が降ってきて先が見えない
この世界はまだ創造されていない あるのはこの梅園だけだ
頂上に着いて木のベンチに腰掛ける 君は大人しい 黙ってこの視界の悪い景色を見ている
僕達が空想と歩き続けるだけで世界は広がっていく 想像と行動
セーター姿の君はとても可愛らしい 「そろそろ行こうか?」と言うと こくりと静かに頷いて立ち上がって僕の隣に並んで坂道を下っていく
どうやら道に迷ってしまったようだ 道は一つしかないのに 芝生を越えて近道などしていたからどっちに行けばよいか分からなくなってしまった 梅園から出られないのだ
梅の仄かな香りがして 小雨が降ってきて 午前中を梅の木を花片を濡らす 幻想世界に迷い込みながら心はやけにしっとりとしている 思いに任せて前に進んでいくと森に入ってしまった
森の中を進んでいくと足元から不気味な感覚が上ってきた 暗く 小雨が葉を叩く音が気持ちを落ち着かなくしたが 閉塞的な安心感があったので 君の手を握って 谷側とは逆の盛り上がっている土の絶壁の下で少し休むことにした 永遠に午前中なので 僕と君は腰を下ろした 暗闇はじっと見ていてもいつまでも暗闇だった
森の中へは霧は入って来れないようだった この森にはそういった不思議な魔力があるらしい 森の外からは自動車の騒音の音が絶えずする 森の外には高速道路が走っていて 流通用の自動車の出入りが盛んなのだ そして森の中からは虫達の鳴き声が休むことなく聞こえる
僕は君に「よし。行こう」と言って 再び歩き出した やはり森の外から早く出たいので 緑の谷底へ降りて行きたかったが それは駄目だと思って断念した
左に曲がったり右に曲がったりしながらやっと森を抜けるとそこは谷の底で 芝生の絶壁が何十メートルもぐるりと空間を囲んでいて 道を辿る以外上に上がるのは無理だった 僕達の背丈以上もある高い草の迷路を歩きながらどんどん絶壁から離れていった 暑かった 青臭い初夏の匂いがぷんぷんとした
再び森の中に入ると(ここは霧がかかっていた 不思議なものだ) 池(川?)の上に木の橋が架かっていて それが延々と続いていた 早生まれの虹色の蜻蛉が飛んでいて幻想的だった 他の空飛ぶ虫も水草や水の中の虫達もみんな虹色をしていた 僕達はそれらを避けながら進んでいくと二つの分かれ道に出た 一つは橋に続くもので もう一つは屋根付きの休憩所がある階段だった 僕は君に「どちらへ行く?」と聞いてみると 「こっちの方へ」と指さし言った 僕は頷いて君の手を引いて長い長い階段を上って行った
しばらくすると僕達は駐車場に出た 駐車場には黒塗りの車が来ていて それは君のお父さんの執事の車だった 執事に挨拶をして「もう一方の道の先にあるものを見てはいかがですか?」と勧められたので この公園の入口の階段を降りていって長い宙吊り橋の上から道を覗いてみた するとそこには僕と君が倒れている姿が見えた