一人
狩心
少年になれない大人の男が、
少年の青さを嘲笑う、
本当は俺も少年になりたいなと、
家から職場までの歩数はいつも同じで、
今日も新聞を読んだだけだ、
果たして私に本当に新聞は必要なのか、
今まで読んできた新聞が体中に張り付いて離れない、
いっそのこと新聞人間とかいう新人類に成りたいものだが、
そもそも私は新聞を全く読まないので無理だ、
社会の「社」の字を削除して、
気分転換に性転換手術を行う、
そろそろ秘密を打ち明ける時がきた、
携帯電話で友人とひそひそ話をする、
行く場所などありもしないのに、
次の約束をしてしまった、
ここで一連目の文章を持って来て、
詩にしようと企てている男がいる、
その男を暗殺して、
私は戦国時代の夢を見る、
戦国時代は下剋上の世の中だった、
私の中も下剋上の世界、
私にとっての織田信長は誰か、
なぜかペコペコと頭を下げる羽柴秀吉だけが明確に分かる、
早く織田信長を暗殺する明智光秀が現れないかと待ち望んではいるが、
私は徳川家康には成りたくない、
織田信長も羽柴秀吉も明智光秀も徳川家康も同一人物であると、
社会の先生に教わったあの頃が懐かしい、
なかなか良い先生だったと思う、
友よ、
そろそろ私にも子供が生まれそうなのだ、
その子供に私は何と声を掛けたら良いのだろう、
たぶん何も語らずに小さく微笑むだけだと思う、
あなたも一緒に微笑んでくれるだろうか、
午後十二時の鐘が鳴っている、
私は最終電車で家に帰るから、
君はここで明日の私を待っていてはくれないだろうか、
名前も知らない君に、
私の記憶を全て託す、
不安なことは何もない、
あの暗闇の向こうに、
静寂が広がっている、
今は亡き、
母の記憶だ、