私の居た場所
なかがわひろか

お母さんとお風呂に入っているときに
あなたはここにいたのよ、と
お母さんは自分のお腹の部分を指差しました

私はその中がどうなっているのか
とてもとても知りたくなりました
急いでお風呂から上がって
台所から包丁を持ってきて
お母さんのお腹のところを
つーっと切り裂きました

中には赤みのかかった桃色の変な形のものや
ひっぱるとどこまでも伸びていく長い紐のようなものが
ぎっしりと入っていました

私はお母さんはうそつきだと思いました
こんな狭いところに私がいたはずはありません
私はお母さんのうそつき、と言って
お裁縫道具を持ってきて
また元通りにお腹を縫い合わせました

家庭科は得意だったのですが
お母さんのお腹の皮膚は幾分分厚かったので
少しいびつになってしまいました

気づくとお風呂場は真っ赤にお母さんの血で
染まっていました
私は常日頃お風呂場の素っ気無い色合いが
あまり好きではなかったので
ピンク色に染まったお風呂場を見て
しばらくこのままにしておこうと思いました

お母さんは何度呼びかけても
お風呂から上がろうとしません
このままじゃのぼせてしまいます
けれどお母さんはお風呂が好きなので
仕方ないと思います

(「私の居た場所」)


自由詩 私の居た場所 Copyright なかがわひろか 2007-07-03 07:35:59
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