騒がしくなる駅
円谷一

 始発のバスのプシューという音がして空を見上げると光輪ができている
 空気は蒼い
 シンボルの時計が印象的だ
 人が疎らに歩いていて噴水が噴き出し始めた
 途端に駅の雰囲気が変わった 小鳥が囀り 少し遠くの車の騒音が聞こえてきた
 まだ大抵の店屋は閉まっていて 饂飩屋だけが開いている 閑散としていて 紙くずが夏風に吹かれて転がっている
 このまま駅が騒がしくなるまでじっと景色を見ていようかと思うが そうするとラッシュ時の喧騒に巻き込まれそうだったので(一人でぼぉっと座っていて何をやっているのかと思われるのが嫌だったので) その前にここから立ち去ろうと思った 少しずつ人々が増えてきて駅に吸い込まれて行く
 僕は駅の構内がどうなっているか気になって想像した 様々な色の電車が行き交い 発車のアナウンスが絶えず放送される 人々が電車から吐き出され たくさんの足跡と足音を残していく
 噴水の冷気がここまで流れてきて 涼しい空気が顔に張り付き 通り過ぎていった ビルのジャングルに囲まれて 駅は凛として青空を仰いでいる 僕はこの情景を詩に書きたくなった
 都会はようやく起き出したようで 駅の前の道路を車が行き交うようになり バスも回送のものや少しの人々を乗せたものが数分おきに出て行った
 僕は朝食を食べていないことに気付いた 空腹を気にし始めると駅前の景色なんてどうでもよくなり 何を食べようか意識が飛んであれこれ考えていた でもこの景色が恋しかった 時刻は7時5分前だった
 いつの間にかタクシーが僕の前に一列に沢山並んでいて ドライバーが大きな欠伸をしていた
 ただ美しいビルの風景を眺め タクシードライバー達の様子を交互に観察していた 僕の趣味はもしかしたら人間観察なのかもしれない 人にはとても言えない趣味だ 近い内に僕もタクシードライバーをやっているかもしれない 都会はようやく動き出したらしい 賑やかな1日が始まろうとしている
 結局ラッシュ時までここに留まって 僕は銅像のように構内に流れ込む人々を見ていた いつになったらこの流れが終わるのだろうと思いながら 時計の針と駅の時計盤を見比べてただじっとしていた ここから何を掴み取っているのだろう
 混雑が過ぎ去って駅はやっと休まることができたようだ 僕もほっとして 振り返って駅を見上げた 都会は相変わらず活発に信号機を点滅させていた 何の為に朝早くから駅に来たのか理由が分からなかったが それでも爽やかな朝を満喫することができて良かった
 僕は家路に向かう 故郷のような駅が僕を見送っているような気がした


自由詩 騒がしくなる駅 Copyright 円谷一 2007-07-03 05:21:04
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