イメージ‥‥十二
soft_machine
ひとのくちからはきだされる弾丸
ことばに影はなく
銃身はいつまでもまっくろ
演技されつつ
ゆっくりと斃れるラジオフレーム
宙からの侵略
リビングで
百合がひらいて
そんなニュースを聞いている
舞台はとおい戦場
ドレスを纏い
注がれるシャンパン
*
猫の目が嘘を暴く夜
見棄てたはずのあの夜
アスファルトにへばりついた赤い月
縦長の瞳孔の奥から
そんな言い訳を嗤う
扉にたどりつけないいつまでも
たどりつけたとしても
開け放ったとたん
目の前の青は
空へ落ちるのが必然だろうし
ぼくはのろのろと深海魚のように
一日の版図を拡げることもできないのだ
*
今日沖合に捨てた
縄にくくられたわたし
潜水艇が発見した
ろうそくいっぽん
暗闇にひそむものがいる
鳶
円錐の底から
海面に突き刺さる
飛魚
きみは虹だけを残し
ふたたびの無言に還る
あの沖合に
ひかりを浴びたまばゆさでただようのは
砂浜を縫う蜃気楼たち
砂浜に跳ねる蜃気楼たち
*
きみが眠ったあとも
きっとセルシェルはレコードに留まり
バッハを回すように奏でていた
ジオラマの中を駆ける兵士になった夢を見る
水漏れのやまない穴の開いた飯盒に蓋して
枕にして撃ち抜かれて眠りたい夢
呼吸を覚えた壁はその音に気がふれ
しろ目のアポロンはなみだをしばたき
コローとルノアールのポスターに住む
男と女は名残り惜しんだ
*
にわとりが真夜中に鳴いたので、次の秘密に耳をすますと、姿をなくしてしまった現実感、それははじまりから不在だったのかもしれない、疑い、ゆっくりと赤い繭を解き、老人と売人と娼婦の街は、子どもの影すら貴重な幻だから、いとの端から水につかる時、吐息の中に絶望できるのは、まだ両足は動いているから
*
鉛筆にかみつき続けた
肌にいのちを求めるあれより
あらゆることがいきるすべてだった頃
さくら軸の鉛筆の味は
あれするよりもっと重要な秘密だった
さくらは炭素と混ざりあって
くらやみに爆発する太陽になった
髪をうしろからなぜる愉快な風でもあった
久しく忘れていたその風なのに
窓を歪ませるほど吹いた
この歳になってまた荒れ狂うこともあるのだ
*
ジェット機が言うこの頃
鉄鉱石だった時代の夢を見るんだ
ぼくは内地球的なことしか思い描かず
表層での営みのささやか過ぎる歓びや
きみに哀しみや優しさがあることも
気づかなかった
いま空を渡り跳ぶ身になってみると
ジャンプとジャンプの下に
たくさんの息吹がちっぽけにうまれ
たいてい朝焼けの前に失われていくんだ
空というものを見た日から
瞑想はつまらなくなったみたいだから
次の渡りまでひと眠りとするよ
*
愛と情の切れ切れのこととそれ
担いでゆかねばならない
空梅雨のアスファルトは
燕の影が遅れて連れられ
蛍の郷に幽霊は住めない
花束のにおいそれと女
いつまでも収穫の時
*
橋の両端で回る ふたりの指さきに
ひらべったいコインが球体を見せる かげろうの舞う宵
ビルに半身を欠いたまま 油の匂いに月が沈んだ
鳩と鴉が公園で 同じ夢を眺めているので
そこにふたりが建てる家は ボール紙が金縁の塹壕
何も食わず 何も争わない
*
遺品のひとつの箪笥から
なぜか俺の手袋がでてきた
この家は
むかし奴の家
いまは俺の家
公衆トイレからでてきた老夫がスキップしている
軽やかに
昇天
*
レミングがゆく地図には
いっぽんの道しか記されていない
恋人で
親子で
ゆく
糞も地雷もふまず
輝きだけを知る
レミングがゆく
振り返ることの忌み
*
海峡の嵐
簡単に転覆する船
砂漠のにおいがする夜
風は自分の民を海岸で洗う
この海の朱は哀しみと希望
この雨の黒は解放の戦い
ジブラルタルを船がゆく
ピースして笑ったモロッコの娘が
暗闇に投げ出され見えなくなると
故国の朝日に打ち上がる
そして彼女の恋人は
今日も戦場で引き金を引いている