世界と名前とカミナリ
嘉村奈緒
身近なものに世界という名前を与える
だから私たちは世界を知っている
世界という名前を与えた私たちは
神である
*
おのおのが良いと思う形で祈り
おのおのが良いと思う言葉で祝福する
どれもが違った姿で
違った世界にいるとされる
けれども良いと思う祈りと
良いと思う祝福で
いつもそこにあれと願うそれは
神という名前の
世界である
私たちの
良いと思う
そこにあれと
最初から最後まで
簡素に
願う
*
ひとつの荒野を
醜い姿が走っている
背のような場所から
紫色のカミナリを
恥じらいもなくカミナリを
どこまでも暗い
ただのそれでしかない風景を
ムラサキイロのカミナリだけが
狂ったように活発で
ただのそれでしかない事象に
名前がつけられる
それはとても簡素である
*
朽ちれば土になる
空には飛ばない
穏やかな行進もない
歌もない
とても簡素な荒野を
狂わせながら
土になるまで
それまで
たくさん与える
たくさんの世界の上に
名前をつける
ムラサキイロのカミナリを
世界の上に
簡素に与える
私たちは知っているようで
知らない
私の名前を与えられたことを
ただそれでしかないという
簡素な世界にする
*
簡素な荒野は暗い
暗くて圧倒的に絶望だ
だから荒野が怖い
だから土になる前に
ただそこにあれと
*
何度だって世界っていえるし
何度だって神っていえる
壮大な世界は壮大すぎて
思わず目を被ってしまうけれども
両手のあいだから貫いていく
私はなぜ朽ちていないのだろうか
*
私たちは荒野である
神という名前をおのおのがつけた
いくつもの世界で
簡素な名前を何度だって
狂ったカミナリで
良いと思う
良いと思った
ただそこにあれと
荒野を走っている
最初から最後までを
ただの土になる前に
簡素な名前を
良いと思う
形で祈り
良いと思う
言葉で祝福し
ただそこにあれ
と