世界と名前とカミナリ
嘉村奈緒






身近なものに世界という名前を与える
だから私たちは世界を知っている
世界という名前を与えた私たちは
神である







おのおのが良いと思う形で祈り
おのおのが良いと思う言葉で祝福する
どれもが違った姿で
違った世界にいるとされる
けれども良いと思う祈りと
良いと思う祝福で
いつもそこにあれと願うそれは
神という名前の
世界である
私たちの
良いと思う
そこにあれと
最初から最後まで
簡素に
願う







ひとつの荒野を
醜い姿が走っている
背のような場所から
紫色のカミナリを
恥じらいもなくカミナリを
どこまでも暗い
ただのそれでしかない風景を
ムラサキイロのカミナリだけが
狂ったように活発で
ただのそれでしかない事象に
名前がつけられる
それはとても簡素である







朽ちれば土になる
空には飛ばない
穏やかな行進もない
歌もない
とても簡素な荒野を
狂わせながら
土になるまで
それまで
たくさん与える
たくさんの世界の上に
名前をつける
ムラサキイロのカミナリを
世界の上に
簡素に与える
私たちは知っているようで
知らない
私の名前を与えられたことを
ただそれでしかないという
簡素な世界にする







簡素な荒野は暗い
暗くて圧倒的に絶望だ
だから荒野が怖い
だから土になる前に
ただそこにあれと







何度だって世界っていえるし
何度だって神っていえる
壮大な世界は壮大すぎて
思わず目を被ってしまうけれども
両手のあいだから貫いていく
私はなぜ朽ちていないのだろうか







私たちは荒野である
神という名前をおのおのがつけた
いくつもの世界で
簡素な名前を何度だって
狂ったカミナリで
良いと思う
良いと思った
ただそこにあれと
荒野を走っている
最初から最後までを
ただの土になる前に
簡素な名前を
良いと思う
形で祈り
良いと思う
言葉で祝福し
ただそこにあれ






 


自由詩 世界と名前とカミナリ Copyright 嘉村奈緒 2007-07-02 21:00:47
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