見せたい詩
円谷一

 ヘッドフォンをして「ドラマチックレコード」を聴いた時だけあの頃に戻れる
 あの頃に戻らないと決めたのに曲を聴いている自分がいる
 風が強く怒ってそうな曇り空で暗闇が広がり小雨が降るかもしれない
 僕はそんな雰囲気が大好きだ 失われた感情 思い出した
 動物達が僕達を見守っている 君は葡萄酒色の小さな白い花柄のドレスを着て「ドラマチックレコード」を大人しく聴いている
 僕はこれから起こることを切々に感じながら美しい君の様子を見ている 歌の歌詞に世界を染み込ませている
 君は僕が話した死んだ彼女のことについてじっと考えている 考え事をしている姿がとても心を暖かくする
 ワンリピートするように君の祖父に改造してもらった蓄音機は「ドラマチックレコード」を流している 誰も延々と流しているとは思わない 一つの終わらない歌として聴いている
 倒れている丸太に座っている君の横に行って頬をくっつけて優しくキスをする 君の目を見る 人形のように瞬きをしない
 腰に手を回して右手を握る 彼女のことを思い出しそうになった ようやく君は僕の何処かを見て微笑んだ 君は何を考えているんだろうか
 雲が消えて夕刻 空を覆っているクモの巣は人と人をインターネットで繋いでいる 巨大なクモはクモの巣を揺らして巨大な水滴を落とした 湖が一つ生まれた
 外は肌寒く 僕達は門限を守らない 目を瞑る 夜の海が見えてきて星達が泳いでいる 次々に感情を呼び起こさせる 君の言ってくれた 詩には無限の可能性があるってこと 本当にそう思うよ
 僕達2人は目を瞑って同じ世界にいる 星の海に寝て 「ドラマチックレコード」を永遠に聴いている 太陽は沈黙の世界にいる
 メリー・アンドリューが君に踊ってよと言っているよ 見とれるぐらい素敵なダンスを踊る そこで世界は終わる ウォークマンの電池が切れたのだ
 僕は自動車の音が酷い歩道橋によしかかっている 車は僕をちらりと見て過ぎ去っていく 信号待ちをしていた車だけだ
 歩道橋を渡る老婆が気になる 降りるまで僕は少し緊張していた
 空を見上げると刃の部分が鋭い三日月が見えた 曇り空が折りたたまれていくのを見た もう一度プレイボタンを押すと 再び「ドラマチックレコード」が聞こえてきた
 君は野花に囲まれて華麗なダンスをしている あぁ彼女のことが忘れられそうだよ
 僕と君は急にいなくなる 僕と君には体温があって それ以外の景色は暖かくない 曲に合わせて ダンスして
 空には落ち着ける場所がある 僕は空だ 冷たい夜闇に染められて星のボタンが光って もうすぐ雨が降りそうだ でも影響は無い クモが曲を聴いて巣の上でノッている


自由詩 見せたい詩 Copyright 円谷一 2007-07-02 01:07:23
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