夏と私
塔野夏子

夏が来る
とりどりの宝石が波うつような
きらめきとあざやかさを纏って夏が来る

いつもはただのフェイクとしか思えない
この生命にもすべての感情にも
夏だけは流し込んでくれる――本当だと思える何かを

だから
夏のさしのべる手をとって
そしてそれを離さずに往く

  (夏とは懐かしさと憧れとの
   一瞬一瞬の鋭い交錯で
   本当の意味での現在など
   存在しないと知ってはいても)

今年はどんな絵巻をくりひろげてくれるだろう
夏が来る
とりどりの宝石がひるがえるような
きらめきとあざやかさを放って夏が来る

この生命にもすべての感情にも
夏だけは注ぎ込んでくれる――愛しさとも云うべき何かを
だから
夏のさしのべる手をとって

そしてそれを離さずに往く
尽きるまで
何処までも




自由詩 夏と私 Copyright 塔野夏子 2007-07-01 11:42:31
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