レコォド
おるふぇ

レコォドの針がぐるぐると巡回する
たちまちこの部屋に横溢する
とめどない狂おしい優しい旋律
作者不明の名曲だ
長い瞬きの後で
果てしない音の海に
ダイヴする

息もできない
雨のように注ぐ時と共に
記憶を濡らし灯し続けるから
曖昧な繋がりに震える
一つの個体の輪郭に
指を伸ばそうとする
永遠に触れられぬ絶望のような
奇跡の音を
創造している
ただ、このレコォドの楽曲は

まだ、闇の途上
ベッドに横たわる肢体が
ふんわりとした
或いはひんやりとした
草原の芳しくも懐かしい感覚に
誘われる

真夜中の闇と同化する
黒髪が乱れている様が
瞼の裏側で、何度も
フラッシュバック

気高い第一楽章の内に
秘められた想いが徒々に
風雅なる様式美を
醸成していく毎に
首が絞め付けられるような快感


(黒髪が揺れる)
(瞼の裏側で)



飛翔する音の光
この部屋は懐かしい草原
揺れるカーテンが
風と共に歌う
連れて行かれるんだ
悩ましくも心地好い
極北の地点まで

波は繰り返す
永遠のハイライト
永遠のクライマックス

あなた、
あなたはこの曲を
聴いていますか

淡い吐息の切れ切れに
切ない涙のむせぶ悦び


 美しい
 嬉しい
 悲しい

 孤独
 憂鬱
 絶望


際立った感情を濾過し
透明な存在へと帰る
レコォドの巡回する音が
最後に途切れるまで


自由詩 レコォド Copyright おるふぇ 2007-07-01 10:49:11
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