乳房(ちぶさ)
いわぼっけ

産まれ出ずるは 孤独なときの声
育みくれた母胎との刹那の訣別
嬰児みどりごは 「いやぁぁぁ いやぁぁぁ」
と泣くのだよ 
この世に初めてのとても小さな泪を見せて
嬰児は雛鳥のように 鳴き続ける
渾身をマシンのようにさえずる個体


サハー世界の拡声器は
母への ワイヤレス 
この娘に名をつけてくれ
おそらく父を知るまい
母の祈りも届くまい

いつかしれず 雛鳥は育ち
その翼の未熟を省みず 森の景色に誘われ飛んで出て 
17歳の娘になりました 
羽の魔法も抜け落ちて
ふわふわの 風船になって 彷徨っているでしょう
世の中の道理は 未だ教えていません
この父の娘です 光江といいます

どなた様も 光江とおぼしき 風船を
お見かけでしたら 言ってやってください
お嬢さん あるいは こぶたちゃん
早くおうちに帰りましょう

もしくは 自首しなさい
自首とは 自ら首を括ることではないことも
説明してくだされば望外の謝恩

しらたまの乳房ふふめる みどり児よ
    やがては君も 母となるらむ


自由詩 乳房(ちぶさ) Copyright いわぼっけ 2003-08-22 11:20:12
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