あやつりママ
なかがわひろか

母が晩御飯を作るのが面倒くさいというので
私が代わりに作ることになった
冷蔵庫を見ても
調味料くらいしかなかったので
母に、材料になるかい?と聞いたら
とても面倒くさそうに頷いた

母をまな板に載せるのは大変だったし
もうほとんどまな板はその意味を成してはいなかったが
一応これは料理なのだからと
やっとのおもいで母をまな板に乗せて
私は母を適当な大きさに切り分けていった

母はとても面倒くさそうで
だらんとまな板の上で横になっていた
私はあまり手際のよい方ではないので
母を切り分けている途中に
何度も母のため息を聞いた

ほどよい大きさに母を切り分けて
鍋に入れようと思ったが
これだけの量の母を入れるような鍋は
家にはなかった

これ以上母を待たせるのも気が引けたので
母の頭の部分から鍋の中に入れて行った
半分ほど入れたところで鍋は一杯になってしまった
仕方ないので私は母の半分の頭をぐつぐつと煮始めた

30分ほど煮込んでいたところで
母の友人が訪ねてきたと
祖母が私に伝えた
私は切り分けられた母を見ながら
どうしたものかと祖母に尋ねた

祖母は部屋から洋裁セットを持ち出して
さっささっさと母の体を縫いつないでいった
頭の半分はもうとろとろに鍋の中で煮込まれていたので
多少いびつな形になったが
久しぶりの友人なのだから
その辺は気づかないだろうと
そのままにしておいた

私は母に縫い付けられた糸を適当に動かしながら
母の友人の話に適当に相槌を打った
友人は随分長い間一人でしゃべった後
勝手に帰っていった

母をずっと操作していた私は
汗びっしょりになって
もうすっかりお腹がペコペコになっていた
祖母にすぐにご飯にするよと言って
また母の知人が来たら困るので
母の縫いつけた体はそのままにしておいた

とろとろに煮込まれた母の半分の顔は
とてもおいしそうな匂いがしていて
私たちの食欲を誘った
私と祖母はいつになく
ガツガツと母の半分の顔を平らげた

祖母が食後においしいお茶を煎れてくれて
二人でゆっくりと飲みながら
また作ってねと言われたので
分かったと私は答えた

(「あやつりママ」)


自由詩 あやつりママ Copyright なかがわひろか 2007-07-01 00:54:14
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