歯止め
見崎 光

アクセルを踏み込む足は
わずかな躊躇を阻み
回転数をあげていく
ミラーを横目に
流れる景色を客観視しては
座りこんだ目に
命を預けてみる


緩める事に躊躇いを感じ
加速させたままの風
カーブに鳴くタイヤは
黒い大蛇を描き出す
変速を重ね
棒と化した腕が痛みだした頃
見えた先の魔


走り屋と呼ばれる者達が
命を飲み込まれていく
恐怖で震えだす体と反対に
足は尚もアクセルを踏み続け
限界を探っていた


重心とハンドルが
振りきれた針のように重い
よぎる顔
強く踏み込んだブレーキ
ゴムの焦げた匂いが充満する車内


クラクションに落ちた涙は
戒めが溢した心の闇
弱さを曝した独り舞台
項垂れる運転席で
救われた感情を抱き締めた


『こんな自分でも、人は涙を惜しまない…』
後悔を背負った肩が
布団に横たわる
静寂の夜に
命の尊さを思い知らされた






自由詩 歯止め Copyright 見崎 光 2007-06-30 18:53:53
notebook Home 戻る