たもつ

 
ある日ふとあなたは
わたしの優しい母となり
慣れないヒールの高い靴を履いたまま
図書館のカウンターのはるか内側
シチューを煮込んでいる

戸外、三角ポールの静かな
駐車禁止区域に来館者は
車を次々と止め
それでもあなたは笑い
笑い返し
順番にシチューを振る舞い
わたしは背表紙の古い小説の本と
海と間違えて
海洋生物の生態について、を
借りたのだった

本当はわたしがあなたを
産んであげたかった
と、いつまでも言いそびれている
いつかやがて夜になり
瞼と嘘の区別がつかなくなっても
あなたが夢の中で死なないように
見ていると思う
 


自由詩Copyright たもつ 2007-06-30 12:44:35
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