映画
ロカニクス

映画を観た後
外は黒で暗く固められていて
妙に丸い機械の部品ばかり転がっていた

映画を観た後
キラキラとしたフィルムは頭を離れることなく
そのまま走馬灯に加えられた

映画を観た後
昨日まで彼方と信じていたものが
ただの素敵な青空にしか見えなくなった

映画を観た後
夕暮れは緑色だった
一人歩く家路はどうしようもなく神秘的だった

映画を観た後
砂と雪しか持ってない主人公が
流した涙は結局拭われなかった
だってもし拭ったとしたら
二度と笑えなくなるから

映画を観た後
身の回りに砂も雪も無いことに気付く
仕方がないので
もう抱えることの無い荷物を砂
これから抱える荷物を雪とした

映画を観た後
冬が来る冬が来る
その前にこれから夏が来る
いずれ冬が来たら
この雪は本当の雪に埋もれてしまうのだろう

だからこの荷物を
もっと荷物として慈しまなくてはいけない
雪になりたいけど決して雪にはならない
その事実ごと抱えて歩かなくてはならない
そのときはここにいるよ
砂も雪も懐かしいものも
懐かしいものが本当は無いということも

映画を観た後
観客は一人だけだった
その観客は砂を踏んで家に帰った
今だけは安らぎたいのだろう
いずれ全ては新雪で新しくなるのだから



自由詩 映画 Copyright ロカニクス 2007-06-30 12:16:53
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