波打ち際
shu

波打ち際にふたり立っていた
足元の砂を波が洗う
掬われるような流れに
チリチリと歯がゆい思いで

―カモメのように
  飛べたらええな
とおまえは言う けれど
鳥はいつでも地面を見つめながら
飛んでいるんやで
と言いかけてやめた

何も聞こえなくて
カモメたちも黙って
白く砕ける波が空に消えて
降るか降らぬか決めかけているような
雨雲がひろがって
おまえの瞳は
ゆらゆらした不安がいっぱいで
固く結んだ唇は今にもなにか言いたそうで

いま 踏んでいるのは
おれたちの痛み
耐えられない痛み?
寄せては返す時間のなかで
削られた痛みはこんなに
たくさん小さくなって
まあるくなって
チリチリと切なくて
やりきれなくて
やさしくて
飛び立つには脆すぎて

泣きそうなめいっぱいの笑顔で
―ここは地上なんやから
と駆けだしていくおまえ
両手をひろげて
バタバタ羽ばたいて
よろけながら
バカみたいに
空に向かって

―そうやな
と笑いながら
おれもぐっと指に力をこめて
流れる砂を
踏んで
踏んで
寄せては返す波打ち際を
走り抜ける






自由詩 波打ち際 Copyright shu 2007-06-29 06:08:14
notebook Home 戻る