故郷にて
円谷一

 君の歌をポケットに忍ばせて故郷を歩き続けるよ
 まずは何と言っても学校 現在は新しいグラウンドになっている
 夢の中で古い校舎の玄関の鍵を開けて 現実で中に入っていくんだ
 空想を広げて 同級生達が走り抜けた廊下を見ている
 僕には自信がある 新しい力を身に付けたんだ だからみんな期待していてね
 近くにある石狩川の堤防の土手と果てしなく続くサイクリングロード 僕はそこで太陽色に輝く石を見つける
 悪魔はこの浮世にいないと思うよ 何処までも駆け上がれそうな青空
 でも夜中になると悪魔はこっそり心の片隅に現れるんだ そんな時はフラミンゴパラダイス?の外観のスポットを当てよう
 旭川の街並みを一望できる山に登ろう 本当は丘の方が良かったのに
 僕はベンチに腰掛けて時計の針を動かす風に身を委ねる 僕は水在らあらあさんのようにスペインに行きたいなと羨望する
 君の歌を何度も聴いていると君のことを思い出すよ 君が高校時代に上京したいが為に作ったデモテープ 君への濃密な想い 一緒に帰った道のり あれ 雪が降ってきた
 空が街並みを真っ暗に照らして 街は自然発光する 銀色にも輝いている
 僕は一際ライトアップされた旭橋から湯気の上がっていて静かに自己主張している石狩川を見下ろす ガンジス川にはガンジス川の良さがあるけど 石狩川に死者や遺灰を流しても良いような気がする
 鉄の蝋燭のようなロータリーを訳もなくぐるぐると回ってナナカマドの実を酸っぱい顔をして食べる 平和通りは街路樹が電球を巻き付けられて眩くタクシーの列と共に旭川駅まで続いている 旭川駅の線路を見ると君が雪の街愛別から遙々時間をかけてやって来ていたことを思い出す 反対に買い物公園はしんと静まりかえって 犇めくように立っているデパートは背伸びをしながら僕を見下ろしている 思い出のスガイディノス 僕達仲間はしょっちゅうここのカラオケにやって来ていた しかし今は無い
 時計の針は10時を過ぎている 夢と悪魔がやって来る時間か しかし僕にとっては故郷が夢の世界のようだし このブロンズ像が悪魔のようだ
 君の東京で作った歌がこの場で異常に浮いていた 空を見上げると流れ星が流れるかと思った けどそんな君と逢える奇跡みたいなんてことは起こらなかった
 最終のバスに乗って昭和通りを過ぎて大町で降りる 森病院の横の堤防を降りて野球場のベンチに腰掛ける 大変な吹雪だ ここで朝になるまで待っている 川の流れは時代に乗り遅れた僕を待ってくれない 鮭の川上りはもっと上流で行われたはずだ
 意識を取り戻すと春の陽気が雪を溶かして色取り取りの植物が顔を出していた 僕はギターを弾く真似をして君の歌を歌った 涙が込み上げてきて寸でのところで堪えた 東京で頑張っているだろうか 始発のバスに乗って亡くなった祖父の家のあった売り地をぼんやりと見ていた 解け残った雪の隙間から一輪の背丈の短い蒲公英が咲いていた


自由詩 故郷にて Copyright 円谷一 2007-06-29 05:23:08
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