あかい ち
士狼(銀)

二号館には
幽霊がいる


獅子のような尾を持った犬が
檻の内側から近づいてくる
わたしが檻の中にいるような
錯覚が怖くて目を逸らした

左側の夕焼けが
セキレイの羽音を焼き切る頃
俯いたままで遠吠えを聴く

おまえも わたしと
おなじ あかい ち

月も欠伸をする深夜
古びた扉を開けると
回復室から漏れる冷やりとした空気が
膝小僧を撫でていくのが分かる
足音を聞きつけた犬たちが
一斉に捲くし立てる

おまえも わたしと
おなじ あかい ち

気配のない踊り場で
暗いケージの端から
鳴き声だけが見える


明日
スカートの裾にしがみついているのは
おまえかもしれない
ならばわたしはその声を
一思いに呑み込んでしまおう

幸せだけが
おまえを連れて行けばいい


おまえも わたしと
おなじ あかい ち

さよなら さよなら 


自由詩 あかい ち Copyright 士狼(銀) 2007-06-28 00:27:57
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