Pieta 
服部 剛

暗闇に立つ
金の門を抜けると 
石段を下りた洞穴ほらあなに 
横たわるひつぎがあり 
三日前に死んだその人は 
音も無く立ち上がる 

茨の冠を額に巻き 
槍に刺された血痕の脇腹と 
釘を打たれた両手を広げ 
穴をこちらに見せながら 
静かに瞳を閉じている 

その頃 
師を裏切って 
蜘蛛の子を散らすように 
逃げた弟子達は 
自らの卑弱な心にうつむいて 
危険を逃れた隠れ家で 
互いの視線を合わさず 
それぞれに丸めた肩を
震わせていた 

( 出来の悪い弟子の私にさえ 
( うらぶれた町の娼婦にさえ
( 柔和な言葉を語りかけてくれた
( あの人はもういない・・・

いたたまれずに
立ち上がったその弟子は 
隠れ家の木の扉から
裸足のまま飛び出し 
曇天の空の下に広がる
音の無い村の家々を抜けて 
涙目で歪んだ顔のまま 
死んでしまったその人の眠る 
洞穴へと走った 

村を抜けた荒地を覆う  
曇天の空の下に立つ 
金色の門を抜けて 
石段を下りた暗闇に入り 
弟子は棺の前に立った 

ふたの開いた中は 
その人が身にまとっていた 
血染めの布が置かれ 
そこには誰も 
いなかった 








自由詩 Pieta  Copyright 服部 剛 2007-06-27 19:17:31
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