Pieta
服部 剛
暗闇に立つ
金の門を抜けると
石段を下りた洞穴に
横たわる棺があり
三日前に死んだその人は
音も無く立ち上がる
茨の冠を額に巻き
槍に刺された血痕の脇腹と
釘を打たれた両手を広げ
穴をこちらに見せながら
静かに瞳を閉じている
その頃
師を裏切って
蜘蛛の子を散らすように
逃げた弟子達は
自らの卑弱な心に俯いて
危険を逃れた隠れ家で
互いの視線を合わさず
それぞれに丸めた肩を
震わせていた
( 出来の悪い弟子の私にさえ
( うらぶれた町の娼婦にさえ
( 柔和な言葉を語りかけてくれた
( あの人はもういない・・・
いたたまれずに
立ち上がったその弟子は
隠れ家の木の扉から
裸足のまま飛び出し
曇天の空の下に広がる
音の無い村の家々を抜けて
涙目で歪んだ顔のまま
死んでしまったその人の眠る
洞穴へと走った
村を抜けた荒地を覆う
曇天の空の下に立つ
金色の門を抜けて
石段を下りた暗闇に入り
弟子は棺の前に立った
蓋の開いた中は
その人が身に纏っていた
血染めの布が置かれ
そこには誰も
いなかった