そんな世界
水在らあらあ








こんなことがあってね
あんなことがあってね
生活がどうにもならなくてね
愛した人と別れてね

こんなことができなくてね
あんなことが叶わなくて
考えに来たんだ
一日中一人で歩いて

でもね 見上げたら
空を 空と思えなくて
だってただ ただ 無限なんだもの
日陰も トイレに隠れる茂みもない平らな大地
少し道から外れて キャロラインが おしっこしている
ベルギー人の バイオリン弾き

あんなことしたかった
こんなことできた
もっと清らかな言葉で
君を 愛せた

でもね 見渡したら
一人きりで 嬉しくて
自由で 
生きたって死んだって自由で

山の上で
足を引きずってもうやめたくて
呪って それでも
もう一歩踏み出したら目の前に湖が開けて
やられて
どうしようもなくなって道から外れて
森の中で射精する

恐いくらいの緑が上空で風に狂って
その上には無限があって
無限の中で生を飛ばして
木の根元に倒れて

それをこの山の大きなトカゲが舐めたら
明日そいつの体の一部は俺でできていて
そんなことをいつか君が言っていた
その美しさが今分った

ガリシアに入ると
水が豊かで
霧雨の中で緑は映えて
蛙がね 合唱しててね

それが俺にはおかしくて
レインコート着てずぶぬれで
それもなんだかおかしくて
そのまま地面に転がって笑って

日常は閉じかけて
まぶたの裏側に花が咲いて
ただ寝ているのがよくて
ただ寝ていたらいいのに

ああ春だね
でももう夏になるね
そうしたら君は薄着になって
そうしたら俺は裸になって

考えて考えて
寝ても覚めても考えて
木槌振るってても
おまえを待って晩御飯作ってても考えて

それでさよなら言って
考えてくるって歩き始めて
考えてどうするんだ
これ以上

先進国で生まれてよかったね
よかったね 病気が先に進んでいる国で生まれて
真っ白なテーブルクロスの上にごちそうが並んでも
満たされずに帰って鍵をかける 牢獄に生まれて

モノガミーで ポルノグラフィックな社会に生まれて

USAの女性の母乳はビンに詰めたら
ドクロマークのラベルを貼らなきゃいけないほど毒されていて
そうしたらその乳房を切って毒を流せばいい
毒を流したまま
血を流したまま
巡礼道を
森の中を
青空の下を
お花畑を
走りぬけばいい

張り詰めた乳牛の乳房を
父親がナイフで刺して
それをまだ小さかった
カレンは見ていられなくて

パパ やめて
パパ 痛い
パパ もう
パパ やめて

何かを変えようとしてるんじゃないんだ
ただやめようとしてるだけだ
かっこつけて選手宣誓して
それで立ち去る

誰もが心臓の少し下に
古く深い井戸を持っていて
そこには清らかな水が湛えられていて
それがあふれる時に
文明はダムを作って

そこで君はいったん溺れて
そこで君は一度死んで
俺はそこにバケツを投げただけだ
杉と蜜蝋で作ったバケツを

日の光の中で きらめいて
もう一度その水が青空を映せればいいと思って

いつだったか この心の中にも
清らかな水が流れていた
それらは海に注がれて
生も死もあたりまえに小さくて美しくて恐くて

正午
太陽に向かって手作りの矢を放って
そこからその日を生きるための食事が白いテーブルクロスの上に振りそそいで
青空が俺たちの悲しみを映して青いんじゃなくて
青空が青空であるだけの世界

裸足で古い獣道を幾日もさまよって血が流れても
涙を流すことがない世界

子供たちがいつでもいつまでも
遊び方を覚えている世界

雲はいつだっていろいろな形のふわふわした動物で
そして雨はいつでも甘くって恵みで

性愛はいつでも死に背中を合わせた奇跡で
そして死は恐怖ではなく出口でもなくただ始まりで終わりで
強者は静かに世界を支えて誰も脅かさなくて
弱者は謙虚に愛情の中で満たされて生きて

古きものたちは忘れ去られることなく
新しいものたちは飼いならされることなく

そんな世界があったら
そんな世界をみんなが願ったら
真っ先に
俺はそこにゆく
恋人の
手をとって












自由詩 そんな世界 Copyright 水在らあらあ 2007-06-27 04:28:08
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