妄想世界朗読旅行・ニース〜フランス編(南フランス鉄道)
馬野ミキ

結局ここまで21人の女の子と付き合い同じだけ別れた
俺は気にいった赤ワインを何本か手にしていた
皆、個性的でチャーミングだった
どの子も自分の人生を目一杯に楽しんでいるように見えた
残念だったのはどの女の子ともセックスで失敗したこと
俺には性に対するトラウマが多すぎた
ようはアレが役に立たなかったのだ。

俺は車窓から顔を出して南フランスの田園風景を見ていた
自分が世界の車窓からの撮影スタッフとして人生を送っていることを想像した
踏み切りのところでキャンバスとパレットを持った若者が突っ立っている
画家の卵といったところか
何年後にあいつもパリに来るのかも知れない
俺は窓から上半身を乗り出して「お前には才能なんかねーぞ!」と日本語で怒鳴った
卵はさっきと同じ姿勢のまま列車が行き過ぎるのを待っていた
俺の声は風にかき消されていた



俺はその風に頬を当てた-



それから俺はゆっくりと座席に腰を降ろした
俺の声は相席のお婆ちゃんに届いた程度であった
お婆ちゃんは俺を見てニッコリと笑った
しわの中に乙女の瞳を見つけた
俺は68年のカベルネを一回転させてから
お婆ちゃんにニッコリを返した
22人目の女-
それからパリに着くまで二人でボトルを七本開けた。


自由詩 妄想世界朗読旅行・ニース〜フランス編(南フランス鉄道) Copyright 馬野ミキ 2007-06-27 00:41:59
notebook Home 戻る